なぜ?を繰り返す習慣:デザイン思考で課題の根本原因を見抜く5 Whys活用法
日常業務に潜む課題の「なぜ」を掘り下げる
日々の業務に追われていると、目の前の問題に対処することに精一杯になり、その根本にある原因を見落としがちです。しかし、表面的な問題だけを解決しても、同じ課題が繰り返し発生したり、新たな問題を生み出したりすることがあります。デザイン思考では、課題の本質を深く理解することから創造的な解決策が生まれると考えます。そして、その「本質理解」を助ける強力なツールの一つに「5 Whys(ファイブ・ワイズ)」があります。この記事では、デザイン思考の考え方と5 Whysを組み合わせ、日々の業務で課題の根本原因を見抜く習慣を身につける方法についてご紹介します。
デザイン思考における課題定義の重要性
デザイン思考のプロセスは、共感、定義、アイデア創出、プロトタイピング、テストのステップで進むのが一般的です。この中でも「定義」フェーズは、ユーザーの抱える真の課題やニーズを明確にする非常に重要なステップです。ユーザーの観察やインタビュー(共感フェーズ)を通じて得られたインサイトから、解決すべき「本質的な問い」を立てます。
この「本質的な問い」を立てる過程で、単なる表面的な問題ではなく、その根底にある原因を掘り下げることが不可欠となります。なぜなら、課題の根本原因を理解できれば、より効果的で持続可能な解決策を見つけやすくなるからです。しかし、忙しい日常の中で、意図的に「なぜ?」と問い続け、深掘りする習慣がなければ、つい目に見える問題に飛びついてしまいがちです。
根本原因を探るシンプルな手法:5 Whys
5 Whysは、トヨタ自動車の生産方式で生まれた問題解決手法です。ある問題が発生した際に「なぜ、それが起きたのか?」と問い、その答えに対してさらに「なぜ?」と問いを深掘りしていくことを繰り返します。一般的には5回程度問いを重ねることで、問題の根本原因にたどり着くと言われています。回数はあくまで目安であり、根本原因にたどり着くまで問いを繰り返すことが重要です。
例を見てみましょう。
問題: 顧客からの問い合わせへの返信が遅れている
- なぜ返信が遅れているのか? → メールを見落とすことがあるから
- なぜメールを見落とすのか? → 問い合わせ用メールフォルダの確認を忘れることがあるから
- なぜ確認を忘れるのか? → 他の急ぎのタスクに気を取られるから
- なぜ急ぎのタスクに気を取られるのか? → タスク管理が属人的で優先順位が明確でないから
- なぜ優先順位が明確でないのか? → チーム内でタスクの全体像や重要度を共有する仕組みがないから
この例では、表面的な問題「返信遅延」の根本に「タスク管理や情報共有の仕組みの不備」があることが見えてきました。根本原因が特定できれば、単に「もっとメールをチェックしよう」という対策だけでなく、「チームでタスク管理ツールを導入する」「問い合わせメールの確認担当者を固定する」といった、より本質的な対策を検討できます。
デザイン思考と5 Whysを組み合わせる実践習慣
デザイン思考の共感フェーズで得られた情報や、日々の業務で直面する「おかしいな」「うまくいかないな」と感じる出来事を起点に、5 Whysを活用する習慣を取り入れてみましょう。
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問題や気になることの特定:
- 日常業務で発生した小さなトラブル、顧客からの不満、非効率だと感じる作業など、何か「問題だな」と感じる出来事を具体的に特定します。デザイン思考の観察や共感の視点を持ち、「なぜこれが起きているのだろう?」と疑問を持つことが第一歩です。
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「なぜ?」を問い始める:
- 特定した問題に対して、最初の「なぜそれが起きたのか?」という問いを立てます。答えが出たら、その答えに対してさらに「なぜ?」と問いを続けます。
- 答えは必ずしもすぐに明確である必要はありません。推測でも構いませんが、可能な限り事実に基づこうと意識します。
- 問いを深める過程で、当初考えていた問題とは異なる側面が見えてくることがあります。これはデザイン思考の「発散」の考え方と通じる部分があります。
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根本原因の特定と仮説:
- 5回という回数にこだわらず、これ以上深掘りしても新しい情報が得られない、あるいはここが根本だろうと感じる地点まで問いを続けます。これが、デザイン思考でいう「課題の定義」につながる部分です。
- 特定した原因が本当に根本なのか、他の可能性はないかなど、批判的な視点も持ちながら検討します。
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発見を記録し、共有する習慣:
- 5 Whysの思考プロセスと結論(特定した根本原因)を、簡単なメモやツールに記録する習慣をつけましょう。後から見返したり、チームで共有したりすることで、学びが定着しやすくなります。
- 会議やちょっとした打ち合わせの際に、「これって、根本的にはなぜ起きているんでしょうね?」と問いかけてみる習慣は、チーム全体の課題解決力向上につながります。
日常で5 Whysを習慣化するためのヒント
- 完璧を目指さない: 最初から厳密な5 Whysを行う必要はありません。まずは2、3回「なぜ?」と問いを深めることから始めてみましょう。
- 隙間時間を活用: 通勤中や休憩時間、あるいは業務の合間に、気になったことについて頭の中で5 Whysを試してみるだけでも効果があります。
- ツールを使う: 付箋やホワイトボード、オンラインツール(Miro, Muralなど)を使って思考を「見える化」すると、より構造的に考えられます。一人で行う際も、紙やデジタルツールに書き出すことをお勧めします。
- 否定しない問い: 自分自身や他者に対して問いを立てる際は、原因を責めるのではなく、あくまで事象の因果関係を探る姿勢を保つことが重要です。
- チームでの実践: 定例ミーティングで、一つ小さな課題を取り上げ、皆で5 Whysをやってみる時間を設けるのも良い習慣です。多様な視点から原因が見えてくることがあります。
習慣化のその先へ
日々の業務で「なぜ?」を繰り返す習慣が身につくと、目の前の事象を鵜呑みにせず、その背景や構造に目を向ける思考力が養われます。これはデザイン思考の「共感」や「定義」の精度を高めるだけでなく、あらゆる問題解決や意思決定において役立つ力となります。
根本原因が特定できれば、次は「では、どうすればこの原因を取り除けるだろうか?」というデザイン思考のアイデア創出フェーズへと自然につながっていきます。そして、生まれたアイデアを素早く試し(プロトタイピング・テスト)、そこから学びを得るサイクルを回すことで、持続的な改善と、ひらめきを形にする力が育まれていくのです。
今日から、目の前の出来事に対して、ぜひ一度立ち止まり「なぜ?」と問いかけてみる習慣を始めてみませんか。その小さな一歩が、日々の業務における課題解決とひらめきにつながる大きな変化を生み出すはずです。