日々の業務で課題の本質を見抜く:デザイン思考『定義』フェーズの実践と習慣化
日々の業務において、私たちは様々な課題に直面します。しかし、その課題の本質を正確に捉えられているでしょうか。目の前の現象や対処療法的な解決策に終始してしまうと、根本的な問題は解決されず、再び同じような壁にぶつかることになりかねません。
デザイン思考における「定義(Define)」フェーズは、共感(Empathize)フェーズで収集したユーザーのニーズやインサイトに基づき、「解決すべき本当の課題は何か」を明確にする重要なステップです。このフェーズを日々の業務に意識的に取り入れることで、より効果的で、人の心に響く解決策を生み出すための確固たる土台を築くことができます。
デザイン思考における「定義」フェーズの重要性
多くの組織では、顕在化している問題に対して迅速な対応が求められます。しかし、その「問題」が本当に解くべき根源的な課題なのかを見極める時間を持つことは少ないかもしれません。デザイン思考の定義フェーズは、まさにこの「何を解くべきか」を深く探求するプロセスです。
このフェーズを経ることで、私たちは表面的な課題ではなく、ユーザーの隠れたニーズや本質的な問題を特定できます。これにより、後続のアイデア創出(Ideate)フェーズで生まれるアイデアが、的外れになることを防ぎ、真に価値のある解決策へとつながる可能性が高まります。また、チーム内で共通の課題認識を持つことができるため、議論の焦点が定まり、効率的な協働が促進されます。
日々の業務で「定義」フェーズを実践する方法
デザイン思考の定義フェーズは、特別なワークショップだけでなく、日々の業務の中にも取り入れることが可能です。以下にいくつかの実践方法をご紹介します。
1. 共感情報の整理と「インサイト」の特定
共感フェーズで得た情報(ユーザーの言葉、行動、感情など)をただ集めるだけでなく、そこからパターンや矛盾点を見つけ出し、ユーザーの隠れたニーズや動機、つまり「インサイト」を特定します。
- ペルソナやカスタマージャーニーマップの活用: ユーザー像や体験の流れを可視化することで、特定の状況下でのインサイトが見えやすくなります。短い時間でも既存の情報を整理し、仮説を立ててみることから始められます。
- 情報のグルーピングと関連付け: 集めたメモやデータを、類似するテーマや観点ごとにまとめてみましょう。これにより、個別の情報点では気づかなかった傾向や関係性が明らかになります。
2. 問題定義文(Point of View: PoV)の作成
特定したインサイトに基づき、「誰が(ユーザー)、何を必要としており(ニーズ)、なぜなら(インサイト)」という形で、解くべき問題を簡潔かつ明確に定義する文を作成します。
- PoVのテンプレート: 「[特定のユーザー]は[ニーズ]を必要としている。なぜなら[インサイト]だから。」というテンプレートに当てはめて記述してみましょう。
- 短い時間でのPoV作成: 全ての情報を完璧に整理してからでなく、現時点で分かっている情報から暫定的なPoVを作成し、必要に応じて更新していくという柔軟な姿勢が重要です。
3. 「どうすれば〜できるか?」(How Might We: HMW)問いの生成
定義した問題を解決するためのアイデア発想を促す「問い」を立てます。「〜をどうすればできるか?」という形で問いを立てることで、解決策の幅を広げ、創造的な思考を刺激します。
- PoVからのHMW生成: 定義したPoVの各要素(ユーザー、ニーズ、インサイト)から複数のHMW問いを派生させてみましょう。例えば、「[特定のユーザー]が[ニーズ]をどうすれば満たせるか?」といった形です。
- 問いの多様性: 一つの問題に対して、様々な角度からHMW問いを立ててみることが効果的です。抽象的な問いから具体的な問いまで、幅広いレベルの問いを用意することで、多様なアイデアを引き出すことができます。
4. 課題を深掘りするテクニックの活用
問題の本質を見抜くために、既存の課題に対して「なぜ?」を繰り返す「5 Whys」や、既存のアイデアを様々な角度から検討する「SCAMPER」などのフレームワークも有効です。これらのテクニックを日常的な思考ツールとして活用してみましょう。
「定義」フェーズの実践を習慣化するヒント
日々の業務で「定義」フェーズの実践を習慣化するためには、意識的な取り組みと環境整備が役立ちます。
- 短いミーティングでの活用: チーム内の短い定例ミーティング(例:朝会)などで、特定の課題や状況について「これの本当の課題は何だろう?」「ユーザーはなぜこう感じるのだろう?」といった問いを立て、数分間だけ議論する時間を持つ。
- テンプレートの活用: PoVやHMWのシンプルなテンプレートを用意し、課題に直面した際にすぐに記述できるようにする。ホワイトボードや共有ドキュメントにテンプレートを貼り付けておくのも良いでしょう。
- 「なぜ?」を問いかける習慣: 日常的に発生する問題やユーザーからのフィードバックに対して、「なぜそうなっているのだろう?」「その背景には何があるのだろう?」と問いかける習慣を身につける。
- 振り返りの時間: 定期的に(例:週に一度)、チームや個人で「この一週間で取り組んだ課題の、本当の本質は何だったのだろうか?」と振り返る時間を持つ。
まとめ
デザイン思考の「定義」フェーズは、表層的な問題にとらわれず、真に解決すべき課題を見抜くための強力なプロセスです。このプロセスを日々の業務に意識的に取り入れ、習慣化することで、あなたの、そしてチームの課題解決能力と創造性は大きく向上するでしょう。目の前の事象だけでなく、その奥にある本質に目を向ける習慣は、より価値のある仕事へとつながる第一歩となります。