デザイン思考でチームの共通理解を深める習慣:抽象的なアイデアをプロトタイプで具体化する方法
日々の業務において、新しいアイデアや複雑な課題についてチームで議論する際に、「どうも話がかみ合わない」「みんな同じことをイメージしているのだろうか」と感じることはないでしょうか。特に抽象的な概念や、まだ形になっていないサービス、あるいは未来のビジョンについて話し合うとき、言葉だけでは伝わりにくく、誤解が生じたり、議論が停滞したりすることが少なくありません。
このような状況を打破し、チームのベクトルを合わせ、創造的な議論を促進するために、デザイン思考のプロトタイピングが非常に有効な手段となります。プロトタイピングと聞くと、完成品に近い試作品を作ってユーザーテストを行うイメージが強いかもしれませんが、デザイン思考におけるプロトタイピングは、それだけにとどまりません。アイデアや概念を素早く「具体化」し、チーム内で共有し、共通の理解を深めるための強力なツールとしても機能するのです。
プロトタイピングが共通理解を深める理由
なぜ、プロトタイプを作ることがチームの共通理解につながるのでしょうか。主な理由は以下の通りです。
- 共通の「見るべきもの」が生まれる: 抽象的なアイデアは人それぞれ異なる解釈をします。しかし、簡単なスケッチでも、模型でも、ストーリーボードでも、具体的な「モノ」として提示されると、チームメンバーは同じものを見て話し合うことができます。これにより、認識のズレを減らすことができます。
- 具体的なフィードバックが可能になる: 言葉でアイデアを説明しても、どのような点が不明確なのか、何に懸念があるのかといった具体的なフィードバックを得ることは難しい場合があります。しかし、プロトタイプがあれば、「この画面遷移は分かりにくい」「この操作は難しいのではないか」「ここにもっと情報が必要だ」など、具体的な要素に対して建設的な意見交換がしやすくなります。
- 暗黙の前提が顕在化する: アイデアを具体化する過程や、作成されたプロトタイプを見たチームメンバーとの対話を通じて、それぞれが当たり前だと思っていた暗黙の前提や考え方の違いが明らかになります。これは、後々の手戻りや衝突を防ぐ上で非常に重要です。
- 当事者意識が高まる: プロトタイプの作成やそれに基づいた議論に参加することで、チームメンバーはアイデアを「自分たちのもの」として捉えやすくなります。これにより、主体的な関与と協力が促進されます。
日常業務で実践する「理解促進プロトタイピング」の習慣
大掛かりなものでなくても、日常業務のちょっとした場面でプロトタイピングを取り入れることで、チームの共通理解を深める習慣を育てることができます。
- 「具体化」したい対象を選ぶ: 新しい企画のコンセプト、複雑な業務フロー、ユーザーの利用シーン、新しいツールの使い方など、チーム内で認識のズレが生じやすい、あるいは具体的なイメージが湧きにくいテーマを選びます。
- 「何を」「どのレベルで」具体化するか決める: 全てを詳細に作り込む必要はありません。「ユーザーの初期体験の流れだけ」「この画面のボタン配置だけ」「顧客とのやり取りの主要なポイントだけ」など、議論に必要な最小限の要素に絞ります。目的は「共通理解を深めること」であり、完璧なものを作ることではありません。
- 素早くプロトタイプを作成する: 用意するものや手法は様々です。
- 物理的な方法: ホワイトボードに図や絵を描く、付箋を使って要素や流れを整理する、簡単な紙工作でインターフェースのイメージを作る、役割演技で特定の状況を再現するなど。
- デジタルな方法: スライド資料で画面遷移を表現する、共同編集可能なドキュメントで情報を構造化する、簡易なモックアップツールや図形ツールでレイアウトを表現するなど。 とにかく「素早く」作ることが重要です。多少の粗さがあっても構いません。
- チームメンバーと共有し対話する: 完成度よりも、共有して対話する機会を持つことが最も重要です。プロトタイプを見ながら、「これはこういう意味です」「この部分はまだ曖昧なのですが、どう思いますか」といった問いかけをしながら、チームで意見を交換します。
- フィードバックを得て次に繋げる: プロトタイプに対する率直なフィードバックを求めます。意見交換を通じて得られた気づきや合意事項を記録し、次の議論や具体的な行動へと繋げます。プロトタイプ自体を修正・改善することも、理解を深める一歩となります。
習慣化のためのヒント
この「理解促進プロトタイピング」を日常の習慣にするためには、以下のような点を意識してみるのがおすすめです。
- 「まず書いて(描いて/作って)みよう」を合言葉にする: 議論が行き詰まったら、言葉で説明し続けるのではなく、「いったん図にしてみましょう」「簡単な絵にしてみましょう」と提案する習慣をつけます。
- 短い時間で試す: 長時間のワークショップ形式でなくても構いません。15分や30分といった短いミーティングの一部として、ホワイトボードや画面共有でサッと具体化する時間を取り入れます。
- 完璧主義を手放す: 上手く描けない、洗練されていないといったことに囚われず、「伝わればOK」という意識で取り組みます。
- チームで共有する文化を作る: 一部のメンバーだけでなく、皆が気軽にプロトタイプを作成・共有できる雰囲気を作ります。成功事例を共有し、プロトタイピングが議論を前に進める有効な手段であることを実感してもらいます。
まとめ
抽象的なアイデアや複雑な課題に対するチームの共通理解は、円滑なプロジェクト推進や質の高い意思決定に不可欠です。デザイン思考のプロトタイピングは、単なるテストツールとしてだけでなく、こうした共通理解を素早く効果的に醸成するための強力な習慣となり得ます。日常業務の中に小さなプロトタイピングを取り入れ、アイデアを具体化し、チームでの対話を深める習慣を育むことで、より創造的で実行力のあるチーム作りにつながることでしょう。