ひらめき思考習慣

視点を変えてひらめきを生む：デザイン思考SCAMPERの日常習慣

日々の業務がパターン化し、新しいアイデアや解決策が見えにくく感じられることは少なくありません。慣れ親しんだやり方は効率的である一方、思考が固定化し、創造性が停滞する要因となることもあります。このような状況を打開し、日常にひらめきをもたらすために、デザイン思考の考え方やツールを応用する習慣が有効です。

デザイン思考は、複雑な課題を人間中心のアプローチで解決するための思考プロセスですが、そのエッセンスや個々のツールは、日々の小さな改善やアイデア創出にも役立ちます。今回は、特に視点を変え、発想を広げるためのシンプルで強力なフレームワーク、「SCAMPER（スキャンパー）」を日常業務に取り入れ、習慣化する方法についてご紹介します。

デザイン思考とSCAMPERの関係

デザイン思考は、共感、定義、アイデア創出、プロトタイピング、テストという一連のフェーズを経て進みます。SCAMPERは、この中の「アイデア創出」フェーズで特に活用されるフレームワークの一つです。既存の製品、サービス、プロセス、あるいは課題に対して、以下の7つの視点から意図的に問いを投げかけることで、新しいアイデアや改善のヒントを見つけ出すことを目的としています。

• Substitute（代用する）：何か別のものに置き換えられないか？
• Combine（組み合わせる）：他のものと組み合わせられないか？
• Adapt（応用する）：他の領域のアイデアを応用できないか？
• Modify（修正する）：形、色、音、機能などを変えられないか？／Magnify（拡大する）：大きく、強く、長くできないか？／Minify（縮小する）：小さく、弱く、短くできないか？
• Put to another use（別の使い道）：他の目的で使えないか？
• Eliminate（取り除く）：不要な要素をなくせないか？
• Reverse（逆転する）：逆にできないか？役割を入れ替えられないか？

これらの問いかけは、普段は無意識のうちに固定されている思考の枠を意図的に外し、新たな可能性を探る助けとなります。

日々の業務にSCAMPERを応用する具体例

では、このSCAMPERをどのように日々の業務で活用し、習慣化していけば良いでしょうか。いくつかの具体的なシーンを考えてみましょう。

1. 会議の活性化

• S: 会議の形式を別のものに代用できないか？（例: ウォーキングミーティング、スタンディングミーティング）
• C: 別の会議やプロジェクトとテーマを組み合わせられないか？（例: 異なるチーム間で合同会議を設ける）
• A: 他社の会議運営方法を応用できないか？（例: アイスブレイクを取り入れる）
• M: 会議時間を修正（短縮/延長）できないか？／議題の数を増やせないか？
• P: 会議で出たアイデアを別のプロジェクトに使えないか？
• E: 無駄な報告や参加者を減らせないか？
• R: 議題を先に共有するのではなく、最後に集約できないか？／議事録を共有するのをやめて、アクション項目だけにする？

2. 報告書・資料作成

• S: テキスト形式の報告書を別の形式（動画、インフォグラフィック）に代用できないか？
• C: 複数の報告書の内容を一つに組み合わせられないか？
• A: 他部署の資料作成フォーマットを応用できないか？
• M: レイアウトやデザインを修正できないか？／情報量を増やせないか？／ページ数を減らせないか？
• P: 作成した資料を報告だけでなく、チーム内の共有教材として使えないか？
• E: 定型的な挨拶や補足情報を削減できないか？
• R: 結論を先に持ってくるのではなく、最後に置く構成にできないか？

3. ルーチンワークの改善

• S: マニュアル作業をツールに代用できないか？
• C: 複数の手順を一つのタスクに組み合わせられないか？
• A: 他部署や他業界の効率化ノウハウを応用できないか？
• M: 作業の順番を修正できないか？／所要時間を短縮できないか？
• P: 作業中に得た知見を別の業務改善に使えないか？
• E: 無駄な確認ステップをなくせないか？
• R: 作業の担当者を逆転（交換）できないか？

SCAMPERを日常に習慣化するポイント

SCAMPERを単なる一時的なアイデア出し手法でなく、日々の習慣とするためには、いくつかの工夫が必要です。

1. 「問い」を意識的に持つ時間を設ける: 毎日の業務開始前や終了後、あるいは移動中などの隙間時間に、「今日の〇〇業務で、SCAMPERの『S』を使えないか？」「このプロセスを『E』（なくす）視点で見たらどうなる？」といった問いを自分に投げかける時間を作ります。5分でも構いません。
2. 対象を限定する: 最初は大きな課題ではなく、日常の小さな業務プロセスや使用しているツール、作成する資料など、具体的な一つに絞ってSCAMPERの視点から検討してみます。
3. メモやツールを活用する: 思いついた問いやアイデアをすぐに書き留める習慣をつけます。スマートフォンやPCのメモ機能、付箋、専用のノートなどを活用します。SCAMPERのチェックリストをデスクに貼っておくのも良いでしょう。
4. チームで問いを共有する: チームメンバーとのちょっとした会話の中で、「このやり方、SCAMPERのM（修正）で考えたらどうなると思う？」といった形で、問いを共有してみます。他の人の視点が加わることで、思わぬアイデアが生まれることがあります。会議の冒頭で特定のテーマについてSCAMPERで問いを投げかける時間を設けるのも効果的です。
5. 小さな実践と振り返り: SCAMPERで得たアイデアのうち、すぐにできそうな小さなことを一つ実行に移してみます。そして、「このSCAMPERの問いかけは効果があったか」「他にどんな問いが有効か」などを振り返り、次回の実践に活かします。

まとめ

SCAMPERフレームワークは、日々の業務に埋もれがちな改善の機会や、新たなひらめきの種を見つけ出すための有効な羅針盤となります。既存のやり方に対して意図的に疑いの目を向け、異なる角度から問いを投げかける習慣は、思考の柔軟性を高め、創造性を刺激します。

日常の小さな一歩として、まずは一つでも興味を持ったSCAMPERの視点から、身近な業務に問いを立ててみてはいかがでしょうか。この習慣が、停滞を感じていた日々に新たな活力を吹き込み、ひらめきを継続的に生み出す源となることを願っております。