チームの創造性を引き出すデザイン思考:日常業務で使える実践ワークと習慣化
日々の業務において、チーム全体の創造性不足やアイデアの停滞に課題を感じることは少なくありません。個人としてのひらめきも重要ですが、多様な視点を持つチームでこそ、革新的で実現性の高いアイデアは生まれます。ここでは、デザイン思考をチームで実践し、その創造性を日常業務の中で引き出し、習慣化していくための方法について解説します。
なぜチームでデザイン思考を実践する必要があるのか
デザイン思考は、ユーザー(顧客)を中心に据え、共感、定義、アイデア創出、プロトタイピング、テストというプロセスを繰り返すことで、革新的な解決策を生み出すための思考法です。このプロセスをチームで実践することには、以下のような多くの利点があります。
- 多様な視点の融合: 異なる経験や専門性を持つメンバーが集まることで、単一の視点では気づけない課題やニーズを発見できます。
- アイデアの化学反応: 一人では思いつかないアイデアが、メンバー間の対話やブレインストーミングを通じて触発され、より洗練されたアイデアへと発展します。
- 共通理解と納得感の醸成: チーム全員で課題の定義やアイデアの検証に関わることで、プロジェクトに対する共通認識が深まり、推進力が生まれます。
- 心理的安全性の向上: 自由に意見を出し合い、失敗を恐れずに試行錯誤できる環境は、チームの心理的安全性を高め、よりオープンなコミュニケーションを促進します。
これらの利点は、チームの創造性を根本から引き上げ、変化の激しい現代において、より早く、より効果的に課題を解決していく力となります。
日常業務で使えるチーム向けデザイン思考実践ワーク
デザイン思考の全プロセスを一度に大規模なワークショップとして行うことも有効ですが、日常業務の中で少しずつ取り入れ、習慣化していくことも可能です。ここでは、各フェーズの要素を日常業務や短い会議時間に取り込めるチーム向けワークをいくつかご紹介します。
1. 共感フェーズ:チームでユーザーの視点に立つワーク
ユーザーの立場をチーム全員で理解することは、課題の本質を見抜く第一歩です。
- ユーザーインタビュー情報の共有会(15分): ユーザーインタビューで得られた情報を、単に議事録として共有するだけでなく、チームで集まり、各メンバーが感じたこと、気づいたことを話し合う時間を設けます。「この発言の裏には何があるのだろうか」「この行動の背景にはどんな感情があるのだろうか」といった問いかけを通じて、深い共感を目指します。
- ペルソナ・カスタマージャーニーマップの共同作成/アップデート(30分): 既存のペルソナやカスタマージャーニーマップをチームで見直し、それぞれの経験や知識を持ち寄りながら、より詳細に、よりリアルに描き加えていきます。「〇〇さんの部署の顧客は、この段階でこんな課題を抱えているようだ」「私たちのチームは、このタッチポイントで顧客にこんな影響を与えている」といった議論を通じて、顧客理解を深めます。
2. 定義フェーズ:チームで課題を明確にするワーク
共感で得られた洞察から、解決すべき本質的な課題をチームとして定義します。
- 課題ステートメントの言語化(20分): 共感フェーズで出てきたユーザーのニーズや課題、洞察をもとに、「〇〇(ユーザー)は△△(ニーズ/課題)と感じており、それは□□(洞察)だからである。」といった形式で、解決すべき課題をチーム全員で一つ、あるいは複数言語化します。異なる視点から課題を表現することで、最も重要な課題が見えてきます。
- Why-How-Whatの構造化(15分): 定義した課題(Why)に対して、それをどのように解決するか(How)、そして具体的に何をするか(What)をチームで議論し、構造化します。これにより、課題と解決策の論理的なつながりを明確にし、チーム内での認識のずれを防ぎます。
3. アイデア創出フェーズ:チームで多様なアイデアを生み出すワーク
定義された課題に対して、自由な発想で多様な解決策を生み出します。
- テーマ別アイデア発散セッション(30分): 定義した課題の一部(例: 「顧客の初期登録のハードルを下げたい」)をテーマに設定し、ホワイトボードやオンラインツールを使ってチームでアイデアを出し合います。発散中は批判をせず、質より量を重視し、ユニークなアイデアも歓迎するルールを徹底します。短い時間で集中して行うことで、日常的なアイデア出しの習慣につなげます。
- アイデアのグルーピングと優先順位付け(20分): 出されたアイデアを、関連性の高いもの同士でグループ化します(アフィニティダイアグラムなど)。その後、実現性やインパクトなどの基準で簡単な優先順位付けを行い、次のフェーズに進むアイデアを絞り込みます。
4. プロトタイピング&テストフェーズ:チームでアイデアを形にし、検証するワーク
アイデアを素早く形にし、ユーザーや関係者からフィードバックを得て改善します。
- 簡易プロトタイプの共同作成(時間に応じて): 絞り込んだアイデアを、絵コンテ、簡単なワイヤーフレーム、紙媒体のモックアップ、簡単なロールプレイングなど、時間とリソースをかけずに形にしてみます。チームで分担したり、集まって一緒に手を動かすことで、アイデアの具体的なイメージを共有し、課題を発見できます。
- クイックフィードバックセッション(15分): 作成した簡易プロトタイプをチーム内で共有し、お互いにフィードバックを与え合います。「この部分はユーザーにとって分かりやすいか」「他に代替案は考えられるか」といった視点で議論することで、改善点を見つけ出します。可能であれば、実際のユーザーに近い立場のメンバーや他部署の人に見てもらうことも有効です。
チームでのデザイン思考実践を習慣化するポイント
これらのワークを単発で終わらせず、チームの日常に根付かせるためには、いくつかのポイントがあります。
- 小さな一歩から始める: 最初から完璧を目指すのではなく、週に一度15分だけ共感ワークを行うなど、チームにとって無理のない範囲で始めます。
- 定期的な時間を確保する: デザイン思考の時間を意識的にスケジューリングし、チームの共通認識とします。朝会や定例会議の一部に組み込むのも良い方法です。
- ツールを活用する: ホワイトボード、付箋、共有ドキュメント、オンラインコラボレーションツールなどを効果的に活用し、物理的な制約やリモートワークの環境でもスムーズにワークが進むように工夫します。
- 成功体験を共有する: チームでデザイン思考に取り組んだ結果、どのような発見があったか、どのようなアイデアが生まれたか、それが業務にどう活かされたかを共有し、肯定的なサイクルを作ります。
- リーダーシップの発揮: チームリーダーが積極的にデザイン思考の価値を伝え、実践を奨励し、自身もワークに参加することで、チーム全体のモチベーションを高めることができます。
- フィードバックと改善: 定期的にチームで実践方法について振り返り、「このワークは効果があったか」「もっと効率的に行うにはどうすれば良いか」などを話し合い、継続的に改善していきます。
まとめ
チームでデザイン思考を実践することは、単に新しいアイデアを生み出すだけでなく、チーム内のコミュニケーションを活性化させ、課題解決能力を高め、変化に対応できる組織文化を育むことにつながります。今回ご紹介したワークは、日常業務や短い時間でも取り組めるものばかりです。ぜひチームで一歩ずつデザイン思考を実践し、その習慣化を通じて、組織全体の創造性を解き放ってください。